人間たちが下界でわっちゃわっちゃする前、この劇の冒頭では、アテナとポセイドンとがお話していました。
その様子を関西訛りで簡略化してお届けします。
ア「おじさーん。ちょっとトロイア助けてギリシア滅ぼすの手伝ってー」
ポ「お前ギリシア側やったやん」
ア「だってギリシア人が私の神殿汚した上にギリシアの誰もそいつ責めへんねんもーん」
ポ「あー、わかったけど何したらええん」
ア「帰国する時にお父さん(※ゼウス)が雹降らせて風吹かせて、ほんで私がお父さんの雷使ってずばーんってするから、おじさんは海を荒れさせて!」
ポ「ほい」
という会話の後にヘカベ登場、という流れです。
だからメネラオスを含むギリシア軍ご一行がちゃんと帰国できたのかは謎なのです。
まぁ帰国できなかったオデュッセウスさんが地中海周辺をうろうろした話が『オデュッセイア』なんですけどね!!!
さてさてギリシア人がアテナ神殿を穢したということですが。
これはご存知の方、いるかもしれませんね。
木馬の計画が成功し、ギリシア軍がいっせいにトロイアを攻めた時、あるギリシア人が、アテナの神像にすがる王女カッサンドラに詰め寄っていました。
ロクリスの王子アイアス――オデュッセウスと武具争いをしたアイアスと区別するため、”小アイアス”と呼ばれます。
ふつう、神殿の祭壇や神像にすがっている人に手を出すことはできません。彼ら彼女らは神様に助けを求めているのであり、ただの人間風情が神様に勝てるわけがないのですから。
しかし小アイアスは大胆にもカッサンドラを神像から引きはがし、床に叩きつけて強姦します。
アテナの神殿で、です。アテナは処女神です。男女の営みは彼女がこの世で最も忌み嫌うものです。それが自分の神殿で行われたのです。しかも戦争で味方してやったギリシア人によって。
アテナが激怒していることはギリシア人たちの耳に伝わりました。
ギリシア人たちは小アイアスを責めなかったわけではないのです。むしろそれなりの罰を加えようとしたのですが、逃げられます。
そして小アイアスはポセイドンの起こした嵐に巻き込まれるのですが、ポセイドンの助けを受けて岩礁に乗り上げます。生き残ったのです。そして
「神の怒りなんて俺には無関係じゃー!わははー!!」
と、のたまいます。怖いもの知らずめ。感謝しろよ。
そしてそんな怖いもの知らずくんはさすがにキレたポセイドンの三又の矛で岩礁を壊され、溺死します。
ギリシアの神々は怒らせると怖いのです。あと(今回の事例は怒って当然と言えますが)思ったより沸点低いです。皆さんも気をつけましょう!!
ついでに。
S. J. ソロモンによる『アイアスとカッサンドラ』(1886)――場面はアレですが、私はこの絵、好きです。神像からカッサンドラへ伸びた光のようなものが、アテナの慈悲を感じさせて。