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Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

Moiraについて本気出して考えてみた①

Sound Horizonの6番目のアルバム「Moira」に関するお話です。サンホラを知らない方はなんのこっちゃとお思いになるかと思われますがご容赦ください。やりたかっただけです←

 

さて、ギリシア語で運命と題されたこのアルバム、ギリシアを舞台としており、当然のように神話が絡んでいます。

ローランの皆様によるいくつかの考察を拝見いたしましたが、やはり神話や悲劇と絡めて考えている方がちらほらいらっしゃいました。

 

私が今からするのは、いわゆる考察ではございません。

このような筋書きはこの悲劇に存在する、あのような行いをするということは彼はあの神話的人物に重なる、という思いつきを並べるだけです。

完全な自己満足ですが、付き合ってやるという方は続きをどうぞ!

今回は『冥王』『人生は入れ子人形』『神話』です。

 

 

◇アルバムタイトルと女神「Moira」について

曲のなかでも”ミラ”と読んでいますが、おそらく現代ギリシア語読みです。(私、現代ギリシア語については一切知識がございませんので、確かなことは申し上げられませんが…)

古典ギリシア語読みでは”モイラ”です。冥王タナトスはこのように読んでいますね。

また、本作品中では一柱の女神とされていますが、本来は三柱の女神たちで、あわせて”モイライ”と呼ばれます。それぞれの名前はクロト、ラケシス、アトロポスといい、運命の糸を紡ぎ、測り、切る役目を負っていたようです。糸のモチーフは、継続して描かれています。

そしてヘシオドスの『神統記』では、モイライはタナトスの姉妹です。

 

◇1.冥王(Θάνατος)

冥王と書かれていますが、実際の神話のタナトスはたいしたことありません。というか実際の冥王はハデスですし。

タナトスは黒衣を纏い、大きな鎌を持った老人の姿をしているそうです。いわゆる死神ですね。(現代人もそうですが)ギリシア人はことさら死を恐れていました。だからタナトスは超不人気の神様です。人間に死をもたらす存在なんですから。

ただ、彼は元気な人間の命をむりやり奪うことはしません。モイライが測り取った糸の長さ――つまり寿命が尽きようという人間を迎えに行くのが仕事です。

ただたまに迎えに行った人間にこてんぱんにされちゃうんですよね。シシュポスとかね。長くなるのでここでは割愛。

 

◇2.人生は入れ子人形(Матрёшка

神話を歴史の舞台に立たせたい考古学者のお話。たいていの方がシュリーマンを想像したかと思います。シュリーマンはドイツ人、ズヴォリンスキーはロシア人、ですが。

シュリーマンホメロス叙事詩イーリアス』をもとに、トロイアを探したと言われます。ズヴォリンスキーも叙事詩をもとにイーリオンを探したのですから同じですね。また、イーリオンはトロイアの別名でもあります。

ちなみにズヴォリンスキーの妻エイレーネですが、ギリシア語で「平和」を意味します。これがストーリーにどう関わっているかはわかりませんが…

 

◇3.神話(Μύθος)

創世神話についてはかなりの違いがあり、もはや別物となっています。ので、最初の方はおいといて、詩女神六姉妹登場のところから。

 

まず、この姉妹たちの役割ですが、ストーリー展開の外側から補足を加えていく、ギリシア悲劇のコロス(合唱隊)を務めているということで間違いないでしょう。

外側と言っても内容と無関係の人物がコロスになるわけではなく、例えば話の舞台になっている土地の住人などがコロスを形成します。

今回も、物語の軸でもある運命の女神の取り巻き(?)の如き彼女らですから、例外ではないでしょう。

 

そして、六姉妹の名前はみな、古代ギリシア周辺世界における地名です(一部もじられていますが)。地図帳片手にどうぞ。

長女Ἰωνία:イオニア。現トルコの最西端の真ん中らへん。ホメロスの出身地はこのへんらしい。

次女Δωρία:ドーリス。ヘラクレスが死んだとかいうオエタ山と、ムーサがいうとかいうパルナッソス山との間。

三女Φρυγία:プリュギア。トルコの真ん中らへん。ろばの耳を授かっちゃったミダス王が治めていたのはここ。

四女Λυδία:リュディア。プリュギアの西隣。ペルシアの大都市サルディスがありました。

五女Αἰορία:アイオリス。イオニアの北隣。沖にはあのレスボス島。

六女Λοκρία:ロクリス。ドーリスを挟んでエーゲ海側とイオニア海側に分かれていたそう。

 

また、最後にアイクがひたすら喋っているのも地名です。

Ἀνατολία(kingdom of Ἄνεμος):風の国アナトリア。トルコのある半島全域。風の都イーリオンがあるのはこの地方です。アネモス(風)の加護付きです。

Θράκια(kingdom of Μάχη):戦の国トラキアバルカン半島南東部。現在はブルガリアギリシャとトルコが接しています。ここの人たちは血の気が多いというのが古代人の共通見解でした。戦い(μάχη)の神アレスもここ出身だとか。

Μακεδονία(kingdom of Φώτια):火の国マケドニア。現在のマケドニア共和国を含む、もう少し広い範囲を指します。かの有名なアレクサンドロス大王はここの出身。

Θεσσαλία(kingdom of Γῆ):地の国テッサリアギリシャ中部の平原地帯で穀倉地帯だそうです。マケドニアとはそこそこ仲良し。

Αἰθωλία(kingdom of Φῶς):光の国アイトリア。ドーリスやロクリスに囲まれた小さな国。山岳地帯で野獣が多く、神話では「カリュドンの猪狩り」が伝わっています。

Βοιωτία(kingdom of Δύναμις):智の国ボイオティア。デュナミスは知恵というより能力を意味します。この土地はオイディプス王の神話で有名ですね。

Λακωνία(kingdom of Ὕδωρ):水の国ラコニア。ペロポネソス半島最南端です。「スパルタ教育」に名を残すスパルタはこの地方の町。

 

ギリシア世界のだいたいの地図を頭に思い描いたところで、次の曲へ参りましょう!