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Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

悲劇か喜劇か、悪女か良妻か。

ヘレネといえば、トロイア戦争勃発のきっかけとなった絶世の美女。

以前紹介したエウリピデスの『トロイアの女たち』では、自らパリスにほいほいついていった淫婦・悪女として描かれています。

これがヘレネの一般的なイメージなんですよね。でも違うヘレネもいたんです。

 

紀元前6世紀頃の詩人ステシコロスが提案したヘレネは、とても悪女とは言えない貞淑な女性でした。このヘレネ像を元にエウリピデスが書いた悲劇が『ヘレネ』です。

悲劇と言いつつハッピーエンド、そして新たなヘレネ像の登場など、学者たちがさまざまな論を打ち立てるこの作品を、今回は紹介していきます( ´ ▽ ` )ノ

 

 

時はトロイア戦争終戦直後。

ヘレネトロイア……ではなくエジプトにいました。なんでもヘルメス神にさらわれてしまったようで。しかもその土地の王様であるテオクリュメノス氏と結婚させられそうということで。もうやだーーーーと己の不幸を嘆くヘレネ嬢。

そこへギリシャの英雄テウクロス氏がやってきます。

テ「なんかお前トロイアにおったヘレネに似とるな!!」

ヘ「あんたなんでここにおんの!?」

テ「かくかくしかじかで祖国を追われてて…」

ヘ「ほんでトロイアは?」

テ「滅びた」

ヘ「メネラオスヘレネと一緒に帰ったん?」

テ「どこにもおらへん」

ヘ「ファーーーーーーー」

というわけでメネラオスは行方不明、母も兄弟もすでに彼岸の人ということを知り、絶望するヘレネヘルメス神はヘレネの将来の幸福を約束するけれど、夫がいないんじゃどうしようもないわーーーとまた嘆く。わたしが美しいゆえに全てが滅んでいくのだわとすっかり弱ってしまいます。

 

一方その頃、嵐に巻き込まれて流れ着いた物乞い姿の男が テオクリュメノスの館へやって来ます。実はこの男こそ、死んだと思われたメネラオスです。

なんやかんやあって再会するふたり。しかしお互いの存在を信じられないふたり。

ヘレネ曰く「私の夫がこんなにみすぼらしいわけがない!ラノベじゃない

メネラオス曰く「ヘレネは洞窟の中に隠してるんや!お前誰や!

ヘレネは夫をすんなり認めるのですが、メネラオスは大混乱。

 

というのも、メネラオストロイアにいたヘレネの幻影を捕えており、偽物とも知らずもう逃げないようにとどこかの洞窟に隠しておいたようで。

このヘレネの幻影は「アプロディーテの思い通り(ヘレネとパリスが結ばれること)にはさせないわぁ!!!」というヘラ女神が作ったもので、ヘレネ(実物)は戦争中ずーーっとエジプトにいたのです。

そうとも知らないメネラオスはそりゃあ「お前誰や!?!?」となるわけで。

しかし洞窟に隠されているのはヘラが作った幻影であることを頑張って説明し、ヘレネも妻だと認めてもらえます。

 

お互いパートナーを想い続けて、やっと再会できた。ならば祖国へ帰ろう。

しかし世の中上手くいかないもので、帰るためにはヘレネと結婚できると思っているテオクリュメノスをなんとかしなきゃいけないのです。

暴君テオクリュメノスを暴走させないためには、メネラオスがここにいることを知られないようにする必要がある。しかし彼の妹テオノエは予言の能力を持っており、彼女が兄にチクる可能性もある。

とかなんとか言ってるとテオノエ本人が登場\テテーン/

案の定メネラオスの存在に気付いており「兄様に報告せねば~」とわたわた。

そこをふたりでなんとか説得し、「たしかに夫婦を裂こうとする兄様が悪いわ」という結論に至らせ、ひとまず作戦成功。

 

次はテオクリュメノス本人をなんとかしないといけません。

そこで物乞いの姿を利用し、メネラオスに「夫が嵐に遭って死んだ時に一緒にいた男」を演じてもらいます。

さめざめと泣く(ふりをする)ヘレネ。「夫が亡くなったからあなたと結婚できる…でも結婚前にお願いがあるの。メネラオスのお葬式をさせて?

涙に目を潤ませるヘレネ。彼女にベタ惚れのテオクリュメノスはふたつ返事で許可。

海で死んだから葬式も海でやらなきゃ」というヘレネ(とメネラオス)の言葉に従い、船と生贄用の牛を用意し、船を漕がせるために自分の家来たちをも差し出します。

ギリシアの作法は変やのう、わっはっは」とごきげんです。かわいそうに。

 

そして帰国の手段を得たメネラオスヘレネは、船に乗っているエジプト人たちを皆殺しにし、無事スパルタへ帰国したのでした~めでたしめでたし。

 

めでたくないのがテオクリュメノス。船上での出来事を使者から聞いて大激怒!

逃げおおせた夫婦はどうしようもないので、わかっていながら自分に真実を教えなかった妹を殺そうと大興奮!家来が引き留めようとするとその家来を殺そうと大混乱!

たいへんなことになってるエジプトの宮殿に\じゃじゃーん/と登場するのが、ヘレネの兄弟でもある双子神ディオスクロイ。なぜテオノエが兄に真実を告げなかったのかとヘレネの将来について、神々の御心にあったことだと説明します。

テオクリュメノスも「あいつええ女やったんやな!!」と納得し、劇はハッピーエンドを迎えます。

 

* * *

 

というわけで、ステシコロスの提案したヘレネ像は

美男子パリスにほいほいついていって戦争を引き起こした悪女ではなく

夫の帰りを異国の地でひたすら待ち続けた貞女でした。変わるものですねぇ。

 

でも本当にただのか弱い女だったのでしょうか?夫に帰りの指示をするヘレネは狡猾な女性にも思えます。

そしてこれは悲劇だったのでしょうか?だからって喜劇と言い切っていいのでしょうか?

いろいろと問題の多い作品です……ぜひ実際に読んでみてください(`・ω・´)