Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

古代のレタス事情調べてみた

いま読んでる本が気になることを言っていたんですよ。

レタスギリシア神話において性的不能の象徴」

 

これはギリシア神話に登場する絶世の美男子アドニスの話に由来します。

アドニスの最期は”狩ろうとした猪にやられて死ぬ”というものです。もともとは”猛獣に果敢に挑んだ”英雄的人物として描かれていたのが、時代が下ると”やられてしまった”部分が注目され、アドニスは弱っちい青年扱いされます。

そしてコロポンのニカンドロス曰く「アドニスはレタスの畑に逃げ込もうとして猪に殺された」

カリマコス曰く「アプロディテはアドニスを猪から守ろうとレタスの中に隠した」

エウブロスの喜劇曰く「アドニスの死体はレタスの中に葬られた」

 

アドニスは先程言ったとおりアプロディテをとりこにした美青年です。お相手は あ の 愛欲の女神アプロディテです。

また、アドニスの母親は没薬もしくは桃金嬢(テンニンカ)の若枝に変身したと言われています。没薬は催淫効果のある香として用いられ、桃金嬢は女性の陰部を示す隠語になっていたようです。

これらのことから考えるに、アドニスの存在は性欲そのものと結びついていたとしてよさそうです。

 

つまり、アドニスの死=性欲の死、性的不能であり、これと結びつくレタスは性欲減退をもたらす植物と考えられます。

 

 

・・・・・・という話を某氏に話していたら一言、

「へー、じゃあ古代のひとたちサラダとか食べなかったの?」

 

・・・・・・たしかに気になる!!!

というわけで調べてみました☆

 

 

見てみたのは大プリニウスの『博物誌』です。

(以下ローマの例で話をしていきますが、ギリシャの資料も確認しています!)

一口に”レタス”と言ってもいろいろな品種があったようで、でも現代で言うレタスとはちょっと違っていたりするようです。

しかしいまは”古代のレタス”事情について知りたいので、古代人がレタスっていうならレタスなんです。そういうことにします。

 

博物誌の19巻において、レタスは「冷却剤」と言われています。ありとあらゆる熱を冷ます役目をしていたようです。

以下、まとまっていたレタスの効果です。

・催眠(somnum faciendi)

・性欲抑制(venerem inhibendi)

・熱冷まし(aestum refrigeraudi)

・腸の浄化(stomachum purgandi)

・血を増やす(sanguinem augendi)

・鼓腸を止める(inflationes discutiunt)

・げっぷを止める(ructus lenes faciunt)

・消化を助ける(concoctionem adjuvant)

いますね、「性欲抑制」。ギリシャ語でも、レタスは別名「不能物」なんて呼ばれていたそうです。かなり直接的。

いわば性欲とは体の内側からわきおこる熱の一種と考えられていたようです。だから熱冷ましのレタスをあてがったわけですね…。

 

レタスの名誉のために言うと、アウグストゥスの肝臓病もレタスで治ったようですよ。

ただ、やはり冷やして治すタイプの病気には効くのですが、体を温めて治さなきゃいけないひとはレタスは食べちゃだめだったようですね。

 

また、お薬としてだけではなく、ふつうのお料理としても食卓に登場していたようです。

アウグストゥスの次の皇帝ティベリウスの時代に生きた貴族アピキウスが遺したレシピ集には、レタスまたはチコリのおいしい食べ方なるものが紹介されています。チコリはいまでもヨーロッパで食べられている、タンポポみたいな見た目のお野菜です。

どちらもドレッシングのようなものと、スライスオニオンを添えていただいていたようです。現代のサラダみたいなものっぽいですね。

 

というわけで、精力減退のもととして男性に嫌われていたと思われたレタスさんですが、諸々のお薬としてしっかり活躍していましたし、きっちりサラダとしてもおいしくいただかれていたことがわかりました~!

要するに、なんでも使い方次第で薬にも毒にもなるってことです、きっと。

 

 

ところで古代ローマのごはんっておいしいんですかね?