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西洋古典学って、ご存知ですか?

ディズニー映画『ヘラクレス』コメンタリ ~Encounter with Phil~

前回の記事はこちら

eureka-merl.hatenablog.com

 

そういやヘラクレスとペガソスが降り立った島の名前、本編では言及されていませんが、もしかするとエーゲ海北部の島・レムノス島かもしれません。

神話が語るにはピロクテテスもトロイア戦争に参加した英雄ですが、トロイアに着く前に脚に傷を受け、その傷が(おそらく膿んで)悪臭を放ちだしたがためにレムノス島に置き去りにされたのです。犯人はオデュッセウス。この神話に関してはギリシアの悲劇詩人ソポクレスが『ピロクテテス』という悲劇を書いています。この悲劇に出てくるオデュッセウスはマジで外道。

ちなみにピロクテテスが武器として携えていたのはヘラクレスの弓。この映画では(見方によれば)関係が逆転しているわけです。

まぁそういうわけでこの島はレムノス島だという推測はせめてそこだけはピロクテテス要素があってほしいという私の願望の表れでもあります。

 

補足はこのくらいにして本編の続きを見ていきます。

 

無事ピロクテテスとの邂逅を果たしたヘラクレスは、自分を英雄にするトレーニングをしてくれるようピロクテテスに頼み込むわけですが、何度も夢破れたピロクテテスはなかなか首を縦に振りません。そこからいかにもディズニー的な夢溢れる説得で彼を口説き落とすというのがこのチャプターのあらすじです。

 

断っても嫌だと言って聞かないヘラクレスを、ピロクテテスは家に迎え入れます。

そこにはギリシアの数々の英雄に関係するお宝が盛りだくさん。

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入って早々ヘラクレスが頭をぶつけたのはアルゴ号の帆柱。

紀元前三世紀にアポロニオス・ロディオスによって書かれた叙事詩『アルゴナウティカ』では、このアルゴ号の乗組員たちが経験した冒険が語られます。ちょっと前に新しい日本語訳が出版されたとこですね!

神話のヘラクレスも乗組員のひとりだったのですが、時系列の乱れは今更語るまでもなく。

 

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その乗組員のリーダーだったのがイアソン(Jason)。彼は金毛羊皮をギリシャからはるか彼方のコルキスまで獲得しに行ったのです。当時としては「最果ての土地」コルキスで、イアソンは後に妻になる王女メデイアと出会い、彼女の手助けもあって無事金毛羊皮を手に入れるわけですが…

まぁそのあたりの後日譚はエウリピデスの悲劇『メデイア』などを読んでいただければ…(あえて語らない)

 

で、このクレオパトラが誰を指しているかは判然としないわけですが。

日本人にいちばん馴染みのある「クレオパトラ」は、世界三大美女のひとりでもあるクレオパトラ七世ですが、さすがに時代が違いすぎる?

同時期(?)のクレオパトラには、北風の神ボレアスの娘がいました。彼女の兄弟であるカライスとゼテスはアルゴ号の乗組員です。そしてヘラクレスとひと悶着あったとかなかったとか。

 

話はイアソンに戻りまして、このピロクテテスは他にも数々の英雄を育てたと言います。

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奥にある矢の刺さった木馬はトロイの木馬を表しているのでしょうか。そして上にいる上半身が人間の女性で下半身が魚?海蛇?である何かはセイレーンでしょうか。

 

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彼が育てた英雄はほかに、オデュッセウスペルセウステセウス、そしてその他大勢の「なんちゃらセウス」。

先述したピロクテテスとオデュッセウスの因縁を踏まえるとそれなんちゅう冗談やって話ですね。そして壺に描かれているのはオデュッセウスの部下がキルケの魔法で豚に変えられた時のこと。『オデュッセイア』10巻202行以下に書かれているお話です。

ペルセウスらしき銅像にはガラスのボウルみたいなものが被せられていますが、これは被ると姿が見えなくなる兜を表していると思われます。メドゥーサ討伐のときに使ったハデスの兜です。あとペルセウスヘラクレスの先祖です、本当は。

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そしてテセウスといえばミノタウロス退治と。テセウスヘラクレスとの関係は薄い方です。一緒にアルゴ号に乗ってはいますが。

 

どいつもこいつも中途半端だと嘆く彼の前に現れたのがアキレウスでした。彼なら自分の夢を叶えてくれるかもしれないと思ったのです。

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しかし、ご存知の通りアキレウスにも弱点はあったわけで。

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最期は踵をやられて「どかーん!」です。

 

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ピロクテテスの夢は、自分の育てた英雄が天に上げられ、星座となること。そして人々が夜空を見上げ「見ろ、ピロクテテスの弟子だ」と言ってくれること。

ヘラクレスは「その夢、叶えてあげるよ!」と言って怪力を披露するのでした。

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そしてこの顔である。

そういやヘラクレスという名前は女神ヘラの名前に「名声」がくっついて出来ています。ヘラが送り込んだ災いのおかげで評判が良くなっていくもんだから、女神としてはたまったもんじゃなかったでしょうね。

 

さて、現在星座として国際天文学連合(IAU)が認めているものは88個ありますが、そのうちギリシャ神話の英雄を模したものとしては「ヘルクレス座」と「ペルセウス座」があります。

そしてピロクテテスのモデルになったと思われるケンタウルスケイローンも「いて座」として星座になっています(別のケンタウルスだという説もありますが)。

現実世界では既にしっかり夢が叶っています。この映画は現行の星座の新しい縁起譚になるかもしれません(?)

 

つづく!