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西洋古典学って、ご存知ですか?

ディズニー映画『ファンタジア』第五章コメンタリ【後編】

前編はこちら。

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後編では第三楽章「田舎の人々の楽しい集い」、第四楽章「雷雨、嵐」、第五楽章「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」の解説です。

前編に登場した神話生物たちに加え、神さまがたくさん登場します。

 


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第三楽章はみんなで葡萄酒作りをしているシーンから始まります。『ダフニスとクロエ』の2巻の冒頭っぽい。

『ダフニスとクロエ』っていうのは紀元後二~三世紀に出来た小説で、全4巻です。田舎に住む少年少女の甘々恋物語であんまり頭を使わず読めるのでおすすめ。ただし岩波文庫では絶版…(;;)


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そしてユニコーンに乗ってやって来た赤ら顔のおじさんは、酒と狂乱の神ディオニュソスです。ほらこめかみに彼の聖樹である葡萄の房が付いてるでしょ。

でも古代のディオニュソス様ってこんな、小太りのおじさんの姿で描かれていることはありません。むしろこれはディオニュソスの付き人であるシレノスの姿と混同して出来上がったイメージなんじゃないかなーとも。

そういえばエウリピデスの『バッカイ』には、ディオニュソスは東方から来た神さまと書いてあります。ユニコーンもインドに生息している(?)し、ある意味辻褄合ってるのかな。

ちなみに『ヘラクレス』のディオニュソス(?)はこんな感じ。57年後もあんまり造形変わってないね。

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ディオニュソスを中心に歌えや踊れ、飲めや騒げの大騒ぎ。ディオニュソスの祭儀にありそうなトランス状態……ってほどではないけど。

 


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ここから第四楽章。宴の最中に暗雲が立ち込めます。雨も降りだしてきたので、ケンタウリスもサテュロスもみんな雨をしのげるところに避難します。

 
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皆が逃げ惑う中、雲の切れ間から登場した神は思ったより怖い顔をしていません。これが天候を司る神ゼウスです。

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こちらは『ヘラクレス』のゼウス。やっぱりあんまり変わってない。


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そしてゼウスの背後で彼の武器である雷霆をトンカントンカン作っているのが鍛治の神ヘパイストス。ゼウスの息子です。


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ゼウスはヘパイストスから雷霆を受け取ると天からぼこんぼこんそれを落とします。狙いはどうやらディオニュソス。嵐が起きるときはゼウスが怒っていると解釈されることが多いのですが、ここではむしろ楽しそうです。いや、楽しく雷霆投げないで。


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きっと風の神アイオロスが遣わしたであろう風たちも絶好調。


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こっちは雷によって壊された酒樽から溢れた葡萄酒でごきげん。このポジティブさは全人類が見習わないといけない。


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ひとしきり雷霆を投げ終わったゼウス様は満足して雲ぶとんで眠りにつきます。いやほんまに何がしたかったの??

後ろで雷霆を大量生産していたヘパイストスは、ひとつ余った雷霆を適当に地上に向けて投げます。いやだから気まぐれでそんなことしないで、そんなとこで親子感出さないで。

 

さて、天候が回復して第五楽章です。雨もあがり、美しい空の色が帰ってきたところで、ケンタウロスもペガソスも日の光の下に戻ってきます。


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雨があがると虹がかかります。その先頭にいるのが虹の女神であり伝令神のイリスです。イリスについても「ソアリン」の記事で書いたのでそちらをご覧ください。

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そして時は夕方。赤々とした太陽が映し出され、だんだんと四頭立て馬車を駆る太陽神の姿が見えてきます。この後出てくる女神のことを踏まえると、これはきっとアポロンです。

もともとアポロンは太陽の神様ではなかったのですが、気付いたらヘリオスという正真正銘の太陽神を吸収していました。ただでさえ多い権能を自ら増やしていくスタイル。というより、それだけアポロンという神様が古代人に愛されていたということです。


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太陽が沈むと夜が来ます。宵闇のマントを地上に覆い被せるようなこの女神は、夜の女神ニュクスです。


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地上の生物たちはみな眠りにつき、細い三日月には女神の姿が浮かび上がってきます。聖獣である鹿を連れた狩猟の神アルテミスです。

アルテミスはアポロンの双子の姉であり、弟同様、月の女神セレネを吸収してしまいました。


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アルテミスが放った矢から星々が散らばります。余計な一言を加えておくと、別にアルテミスの矢にそんな効果はありません。

物語の最初に映し出された山野の風景が夜の姿に変わって『ファンタジア』第五章は終わり。

 

*****

 

『ファンタジア』は全編ぶっ通しではなく一章ずつ見る、という楽しみ方もできるのがいいですよね。この第五章は20分ちょっとです。『ファンタジア』の中では長い方。

間違いなく「良いものを観た/聴いた」という気分になれるので、おこもりのお伴におすすめします、よ!もちろん他の章も素晴らしいのでぜひ!!