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西洋古典学って、ご存知ですか?

【Remedia Amoris】推しを語る #5

前回の記事はこちらからどうぞ。 

eureka-merl.hatenablog.com

 

「推しを語る」シリーズ第5回は『恋の治療(Remedia Amoris)』について。

かつて藤井昇先生が『惚れた病の治療法』という題で日本語訳を出版なさっているのですが、前回書いたように既に古本でしか手に入らないと思われます。

ところでこの藤井訳、なぜか「藤井昇・」ではなく「藤井昇・」と表紙に書かれています。たしかに藤井先生の思い切った訳も多分に含まれていて、もはやオリジナルな言葉選びではないかと思われる箇所もあるのですが、そういう理由なのでしょうか……。私はLaresを「俺ン家の仏壇」って訳すセンスめちゃくちゃ好きです。

 

私がこの作品のタイトルを『恋の治療』と呼ぶのは、これが直訳だからというのがひとつ。より大きな理由としては、『恋の技法(Ars Amatoria)』とタイトルで韻を踏みたいからです、「技法」と「治療」で(笑)

そして韻を踏みたい理由は、『恋の治療』が『恋の技法』の続編的な作品だからです。

この作品は、作品タイトルを見たクピードーがオウィディウスに対して「喧嘩売っとんか?(bella mihi, video, bella parantur, Rem. 2)」と言うところから始まります。

 

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【Ars Amatoria】推しを語る #4

前回の記事はこちらからどうぞ

eureka-merl.hatenablog.com

 

「推しを語る」シリーズ、第4回は『恋の技法(Ars Amatoria)』についてです。

彼の作品の中では『変身物語』に並ぶくらい有名なものですよね。これなら読んだことあるって方も多いでしょう。

 

ラテン文学の人気があまりない我が国でも、日本語訳はこれまで三種出版されています。いちばん古いのが樋口勝彦先生による『恋の技法』。 

恋の技法 (平凡社ライブラリー)

恋の技法 (平凡社ライブラリー)

 

 

次に藤井昇先生の『恋の手ほどき』。わらび書房から出版されたものですが、もう古本でしか手に入らんかな……? ちなみにRemedia Amorisの邦訳『惚れた病の治療法』もいっしょに収められています。

 

そして最も新しく、最も手に入れやすいと思われるのが沓掛良彦先生の『恋愛指南』です。

恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)

恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)

 

西洋古典、特にラテン文学では珍しくこれだけたくさん訳本が出て絶版にもなっていないということはそこそこ売れているのでしょう。たしかに目を引くタイトルですよね。

ちなみに私はこの作品をいつも『アルス・アマトリア』とラテン語そのままか、樋口先生式に『恋の技法』と呼んでいます。「技法」という日本語を好んで使っている理由は次回。

 

さて、タイトルからお察しいただけるとは思いますが、この全三巻構成のエレゲイア詩を一言で説明すると、ずばり「恋愛指南書」です。

しかし現代日本で見かける恋愛指南書(Amazonで検索したら思いのほかたくさんあってびっくりしました)みたいなものを想像されると、ちょっとオウィディウスの思惑から逸れてしまうかもしれません。

 

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【Heroides】推しを語る #3

シリーズ「推しを語る」第3回です。

↓前回の記事はこちらからどうぞ↓

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前回扱った『恋の歌』は、内容はさておき、恋愛エレゲイア詩の伝統(と言うほど年季の入ったジャンルではありませんが)に則った作品でした。 

今回扱う『名高い女たちの手紙(Heroides)』――ちょっと長いので以下『ヘロイデス』と呼びます――は、恋愛を主なテーマに据えていてエレゲイアの韻律で書かれている、という特徴は前作と共通していますが、タイトルにも表れているとおり、とてもユニークな設定で書かれています。

この作品は21篇の「手紙」から成っています。第1~15篇は神話伝承の中の女性たちがパートナー(?)たる男性へ送った単独書簡、第16~21篇は男女の恋人たちの間で交わされた往復書簡です。

 

今回はこのような観点で『ヘロイデス』を紐解いていこうと思います。

① タイトルについて:heroisとは?

② これまでの恋愛詩&書簡詩との違い

③ 書き手と読み手の「見る範囲」

 

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