Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

古典のひと・もの・はなし

【Ex Ponto】推しを語る #10

前回の記事はこちら eureka-merl.hatenablog.com 長きに渡る「推しを語る」シリーズも最終回になりました。 最後に取り上げるのは『黒海からの手紙(Epistulae ex Ponto)』です。 ※「手紙」を意味するepistulaeはときどき省略されます。 日本語訳は、第8回で…

【Ibis】推しを語る #9

前回の記事はこちら eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」第9回は、邦訳未出版の誹謗詩『イービス』についてです。 めっちゃ面白いから早く日本語でも読めるようになってほしい(他力本願) この644行の詩が書かれたのは、『悲しみの歌』執筆途中の紀元…

【Tristia】推しを語る #8

前回の記事はこちら eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」第8回です。ここから先は詩作第三期――ローマを追われ、トミスに滞在していた時期のお話です。オウィディウスはこの時期に三つの作品を残しました。 今日取り上げる作品はそのうちの一つ、『悲…

【Fasti】推しを語る #7

前回の記事はこちらからどうぞ eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」第7回は『祭暦(Fasti)』についてです。 日本語訳は出版されていますが、なかなか普通の書店じゃ見つけられませんね…。 祭暦 (叢書アレクサンドリア図書館) 作者:オウィディウス メデ…

【Metamorphoses】推しを語る #6

前回の記事はこちら eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」シリーズも折り返し後半戦になりました。 今回は彼の代表作であり、私の研究対象である『変身物語(Metamorphoses)』についてです。 オウィディウス研究といえば『変身物語』研究!みたいなとこ…

【Remedia Amoris】推しを語る #5

前回の記事はこちらからどうぞ。 eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」シリーズ第5回は『恋の治療(Remedia Amoris)』について。 かつて藤井昇先生が『惚れた病の治療法』という題で日本語訳を出版なさっているのですが、前回書いたように既に古本でし…

【Ars Amatoria】推しを語る #4

前回の記事はこちらからどうぞ eureka-merl.hatenablog.com 「推しを語る」シリーズ、第4回は『恋の技法(Ars Amatoria)』についてです。 彼の作品の中では『変身物語』に並ぶくらい有名なものですよね。これなら読んだことあるって方も多いでしょう。 ラテン…

【Heroides】推しを語る #3

シリーズ「推しを語る」第3回です。 ↓前回の記事はこちらからどうぞ↓ eureka-merl.hatenablog.com 前回扱った『恋の歌』は、内容はさておき、恋愛エレゲイア詩の伝統(と言うほど年季の入ったジャンルではありませんが)に則った作品でした。 今回扱う『名高…

【Amores】推しを語る #2

うっかり始まってしまった「推しを語る」シリーズですが、前回はオウィディウスの作品に一切触れることなく終わってしまいました。 ↓こちらからどうぞ eureka-merl.hatenablog.com 今回からオウィディウスの各著作を見ていきます。まずはデビュー作『恋の歌(…

【... et Naso】推しを語る #1

皆様お久しぶりです。 そして何ヶ月も更新せず既存の連載記事も完結していないのに新しいシリーズを始めます。題して「推しを語る」。 私の「推し」、つまりオウィディウスという詩人について好き勝手語り散らすシリーズです(今回含め全10回の予定)。 という…

ホラティウス『カルミナ』韻律まとめ

文化センターでマルティアリスを扱って以来、ひとつの作品でいろんな韻律を使う詩人にどうしてもときめいてしまうようになったんです。マルティアリスだけじゃなくて、このホラティウスとか、カトゥッルスとか…。 そして先日、後輩に「ホラティウスを読みた…

オープンキャンパスでさんざんふざけた話

去る8月9日、名古屋大学文学部のオープンキャンパスが開催されまして、 我ら西洋古典学研究室は学生が古代ギリシャの衣服を着てもてなし、また高校生にも試着してもらえるコーナーを設けました!! もうね、先生が帰郷してて不在やからって好き放題やったっ…

シュリーマン展@名古屋市博物館

この展覧会の存在を知ったのは、研究室のテーブルにフライヤーが置かれていたからです。 (表) (裏) 最初は「巨人の城に挑む」とか「ティリンス城を掘る」とかが 日曜日の18:30からやってる某アニメのタイトルっぽいって言ってました← 大学の記念事業とい…

アウグストゥスと肝臓病

eureka-merl.hatenablog.com 1年ほど前に投稿したこちらの記事に質問をいただきました! せっかくなので改めてもとのテキストを読んでいこうと思います。 「アウグストゥスの肝臓病がレタスで治った」と書きましたが、これについては大プリニウスの『博物誌…

悲劇を破壊した悲劇詩人

ギリシア文学でホメロスと並んで学者たちをざわざわさせているものといえば、ギリシア悲劇でしょう。 1つの悲劇につき約1500行から2000行。作品の長さは叙事詩に比べれば圧倒的に短いものですが、質は負けず劣らず! いわゆるギリシア古典時代(紀元前5世紀…

悲劇か喜劇か、悪女か良妻か。

ヘレネといえば、トロイア戦争勃発のきっかけとなった絶世の美女。 以前紹介したエウリピデスの『トロイアの女たち』では、自らパリスにほいほいついていった淫婦・悪女として描かれています。 これがヘレネの一般的なイメージなんですよね。でも違うヘレネ…

神様は思ってるよりこわい

エウリピデス『トロイアの女たち』について、続きです。 人間たちが下界でわっちゃわっちゃする前、この劇の冒頭では、アテナとポセイドンとがお話していました。 その様子を関西訛りで簡略化してお届けします。

パリスの審判なんてなかった!?

今回紹介するのは、エウリピデスが書いた悲劇『トロイアの女たち(原題:Τρῳάδες、トローイアデス)』です。 舞台はトロイア戦争終結から数日経ったトロイア。妃のヘカベを中心に話が進んでいきます。 上演されたのは紀元前415年で、アテナイでは街の守り神とも言…

真実はいつもひとつ!じゃない!!

※タイトルはあれですが、内容は某少年探偵や少女探偵団とは関係ありませんw ギリシア神話には決まったひとつの筋書きしかない、なんて思っているひとはいませんか? 実は、神話は時代や場所によって形を変えていっているのです。 特に、ヘレニズム時代とい…

ペルセウス、怪物退治のその後

メドゥーサを退治し、ケートスを退治し、意地悪い男たちをさくさくっと石にしたペルセウス。母ダナエと妻アンドロメダを連れ、本来の故郷であるアルゴスへと帰ります。 その前に怪物退治に使った武器や防具をヘルメスに返しました。 そしてメドゥーサの首は…

Let's 怪物退治! ~ケートス編~

※メドゥーサ編の続きです ペルセウスがメドゥーサを討伐してエチオピア上空を飛んでいた頃、その下の海では王女が岩に鎖で縛りつけられていました。 というのも、この王女アンドロメダのお母さん(つまり王妃)カッシオペイアが 「うちの子は超かわいくって…

叙事詩を読もう!~六脚律とは~

六脚律(ヘクサメトロス、Hexameter)とは、古代ギリシアより伝わる叙事詩ならではの韻律です。 ー U|- U|- U|- U|- u u|ー X 六脚律の構成を図にするとこうですね。 Uは長音節でも短音節×2でもいいところ、Xは長音節または短音節×1です。…

叙事詩を読もう!~ラテン語音節の長短について~

ギリシア・ローマ文学最大にして最高の作品と名高い『イーリアス』、ローマ建国伝説を描いた『アエネーイス』、250もの神話を連ねた『変身物語』―― これらは全て、叙事詩というジャンルに含まれ、文学ジャンルで最高のものとされています。ルネサンス期なら…

Let's 怪物退治! ~メドゥーサ編②~

勢いでメドゥーサ討伐宣言をしてしまったペルセウス。 途方に暮れる彼を助けてくれたのはヘルメスとアテナでした。 ヘルメスから翼の付いたサンダル、アテナから盾、ついでにハデスのおじさんから姿を隠す兜を借りて、武装は完了しました。 次に問題なのはメ…

Let's 怪物退治! ~メドゥーサ編①~

やっぱり始まりはゼウスの浮気です。 アルゴスの王女ダナエーに一目惚れしたゼウスは、黄金の雨になってダナエ―と交わります。ええ、雨です。何を言っているかわからないかもしれませんが、ギリシアの神々に不可能はないのです。 (ティツィアーノ・ヴェチェ…

Let's 怪物退治! ~アルゴス編~

事の始めはいつものあれ。ゼウスがふらふら~っと、ヘラ神殿に仕えていた乙女イオに浮気したのでした。 ヘラ「あんたまた浮気したでしょ!?」 ゼウス「そんなことない!絶対ない!!」 ヘ「じゃあその雌牛は何!?」 ゼ「えっ、ほら、きれいでしょ(しろめ)…

天才と問題児は紙一重?

プブリウス・オウィディウス・ナーソー。 初代ローマ皇帝アウグストゥスの治世下で活躍した詩人です。 カエサルが暗殺された翌年の春、スルモーというローマ郊外に生まれ、騎士階級のおうちで育ちました。 お父さんは、彼に官僚の道を進んでほしいと思い、お…