皆さん、こちらの絵はご存知でしょうか?
ピーテル・パウル・ルーベンスが1636年に描いた『パリスの審判』です。
◇パリスの審判とは
「一番美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎。この1個の林檎をめぐってヘラ、アテナ、アプロディーテの3柱の女神が争います。
そしてその最終判断を託されてしまったのが、トロイア王子パリス。
女神はそれぞれ「自分に林檎をくれたら」と条件を言い渡します。
ヘラはアジアの君主の座を、アテナは戦いにおける勝利を、アプロディーテは世界一の美女を。
若いパリスはアプロディーテに林檎を渡し、”世界一の美女”スパルタ国王の妃ヘレネを手に入れます。これがトロイア戦争の原因となりました。
◇黄金の林檎
そもそもなぜそんな林檎を女神たちが持っていたのか。
事件が起こったのは、あの有名な英雄アキレウスの両親の結婚式でした。
英雄ペーレウスと海の女神テティスの結婚式にはたくさんの神々が招かれ、盛大な宴が催されました。
ただ、それに招かれなかった女神エリス――この神は不和と争いを司るのですが――はかんかんです。激おこです。今思えばグリム童話の『眠り姫』に出てきた13番目の魔女もこんな感じでしたね。
それでひとつ喧嘩を起こしてやろうと宴の席に黄金の林檎をひとつ、ポイッ。
話は最初に戻ります。
◇絵画について
こちらは同じくルーベンスが1639年頃に描いた『パリスの審判』です。
反対向きの構図になっていますが、登場人物(というか神)は変わっていません。1636年の方にはおまけもありますが、それは後で。
まず座って考え込んでいる素振りをしているのがパリス。審判を託された時は山で羊を見ていたので羊飼いの格好です。王子といってもずっと王宮にいるわけではありません。
パリスの横にいる帽子を被ったお兄さんが伝令神ヘルメス。よく見ると帽子には羽が付いています。彼は空をびゅーんと飛んで、各地に神様からの伝言を届けるのです。今回も、パリスに審判に関する伝言をしていました。
あと、変わった形の杖も持っていますね。ケーリュケイオンと言います。ヘルメスの持ち物についてはまた後日詳しく。
ここからが問題です。3人並んだ女神たち、どれが誰だかわかりますか?
まず神々の妃ヘラ。36年版、39年版とも一番右です。
ヘラの目印は孔雀。孔雀がこの女神の聖鳥なのです。これはヘルメスも関わってくるアルゴス退治の神話が元になっています。
次に知恵と技芸と武勇の女神アテナ。どちらの絵でも一番左です。
彼女の目印は、戦いの女神らしく兜と盾。36年版では、何やらおっかない顔をした女が盾に映っていますね。これは怪物メドゥーサです。アテナとメドゥーサの関係については、別記事で。
最後に愛と美の女神アプロディーテ。残っている真ん中の彼女です。
彼女の目印は、横にいる男の子。ええ、ヴィーナスの付き人といえばのキューピッドです。ギリシャ神としての名前はエロース。
36年版では少し離れたところにいるのでわかりにくいですが、アプロディーテ自身が嬉しそうな顔をしているので、まぁ特定できなくはないかと思います。39年版は、キューピッドっぽいのが2人いますね。ひとりはお母さんの脚に抱きつき、もうひとりは頭に冠を…。…この際人数は問題ないのです。たぶん。
そして36年版、空をよーーく見てください。誰かいませんか。
これが不和の女神エリスです。
こちらは南オランダの画家Frans Florisの1550年頃の作品『パリスの審判』です。
黄金の林檎を受け取っているのが、エロースを連れたアプロディーテ。彼女に冠をかぶせようとしているのは…勝利の女神ニーケーだと思われます。
手前のおじさんがヘルメス、よく見ると鳥を抱えているのがヘラ、そして兜を被って槍(?)を持ったアテナです。
こちらはフランソワ・ファーブルが1808年に描いた『パリスの審判』です。
目印はそのままなので、おわかりですよね?空に浮かんでいるのは、おそらく、エリスです。
今まで目印と言っていたもの、美術史の用語では”アトリビュート”と呼ぶそうです。いわば”持ち物”ですね。
神話画におけるアトリビュートは、必ず神話が基になっています。それらを知っているともっと絵画鑑賞が楽しくなりますよ!このページでもたくさん紹介していこうと思います(*^ ^*)