宇宙が形作られ、人間が誕生し、アポロンが怪物ピュトンを退治したところで終わった1巻の前半。
ピュトンを退治した時のアポロンは、特に自分の樹というものを持っていませんでした。ではいつから「アポロンの樹=月桂樹」になったのでしょう?
コルネリス・デ・フォス『アポロンとピュトン』1636-8年、プラド美術館
これが退治した時の絵なんですけど…
いますね。なにか。矢をつがえていらっしゃいますね。
この弓矢を構えたキューピッド様こそが事件の始まりをもたらすのです。
ピュトンを倒して気分上々になったアポロンは弓矢の手入れをしているクピドに対し
「弓矢の技は俺のモンやぞ!」と粋がります。
それにかちーんときたクピドは「じゃあおじさんを射抜いてあげる^^」
と言って、恋をもたらす金の矢をアポロンに、恋を遠ざける銀の矢を乙女ダプネにむかってびゅーーーん!
必然的にアポロンは垣間見たダプネに恋し、ダプネは恋そのものが嫌になって永遠の乙女でいることを望みます。そして全くかみ合わないふたりの追いかけっこが始まるのです。
ア「待ってよーーーそんなに急いだらきみの綺麗な脚に傷がついちゃうよーー!!ぼくアポロンだよ!?ぼくすごいんだよ!?」
ダ「寄るな変態!!!!助けてお父様!!!!」
とまぁこんなやり取りをしつつ(※してません)追いかけっこをしていると、娘がかわいそうになった河神ペネイオスは、娘の体を月桂樹に変えました。
ニコラ・プッサン『アポロンとダプネ』1625年、アルテ・ピナコテーク
それでもアポロンくんの気持ちは変わらず、「きみがぼくの妻にならないなら、ぼくの樹にしてあげるね♡」
そういうわけでアポロンの聖樹は月桂樹になったのです。ダプネのその時の心境やいかに。
さて、しばらく後に河の神たちの集会があったらしいのですが、来なかった神がひとり――イナコスです。
というのも、娘が行方不明になってしまってそれどころじゃないわけですね。
犯人はユピテルなんですけど。
ピーテル・ラストマン『ユピテルとイオを見つけるユノ』1618年、ナショナル・ギャラリー
「お!かわいい子がいる!」といつもどおりホイホイされたユピテル氏。
それを見逃すはずもないユノ様。ユピテル氏が妻の目をごまかそうとイオを雌牛に変えるも、「その牛さんいただくわね♡」と持って行かれます。かわいそうなのはイオです。
ユノはこの牛(イオ)を、百眼の怪物アルゴスに見張らせます。百個の目たちは交代で寝るので、全部の目が閉じていることはありません。24時間見張れます。
その目便利だな、くれよ。
逃げるに逃げられないイオがかわいそうになって、ユピテルはメルクリウスを送ります。策士メルクリウスはあれこれとつまらない話をしてアルゴスを完全に眠らせようとします。
そして持ち出したのが、葦笛の起源譚でした。
シュリンクスという有名なニンフが牧神パーンに気に入られ、神に追いかけられる途中で葦に変身したというのです。
そしてこの草が思いのほか良い音を出したもんで、パーンは笛を作ってシュリンクスと呼んだそうですねー。
ジャン・フランソワ『パンとシュリンクス』1722-4年、ゲッティ美術館
この話を聴いて、つまらなかったのか、アルゴスはすやすや。
ピーテル・パウル・ルーベンス『メルクリウスとアルゴス』1635-8年、アルテ・マイスター絵画館
イオも見ておりますね。
この首を!メルクリウスが!鎌ですぱーーーーん!!
あわれ転げ落ちた首からユノは眼を拾い上げ、孔雀の羽に埋め込みました。
ピーテル・パウル・ルーベンス『ユノとアルゴス』1611年頃、ヴァルラフ・リヒャルツ美術館
そして憎き情婦イオへとその怒りを向けるのです。
今回はここまで。次は2巻へと移行していきます。