Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

怖い絵展@上野の森美術館

東京に来る前には神戸でやっていましたね。

「どうして。」というシンプルなキャッチコピーと処刑直前の若い娘の絵は、とってもわかりやすく怖い。とはいえ「怖い」と感じるかどうかは人それぞれで、この展覧会にもさまざまな「怖い」が揃っていました。

中野京子氏の『怖い絵』シリーズに基づいた本展、どうも人気すぎて今は毎日9:00~20:00開館という大変なことになっているようですね。物好きさんが多いようです、「怖いもの見たさ」ってやつですね。

 

展覧会は6章構成で、そのうち第1章が「神話と聖書」と題されていました。

この記事では、その第1章で扱われたギリシア神話をもとにした絵7つ+αについて書いていきます。

※画像は適当にネットの海から拾ってきたので、画質についてはご容赦ください

※各神話について記述のある古典作品とその箇所はいちばん最後にまとめてあります

 

 

ヘンリー・フューズリ『オイディプスの死』

f:id:eureka_merl:20171123225939j:plain

ソポクレスの悲劇『コロノスのオイディプス』に取材した作品。真ん中の老人がオイディプスで、彼にすがっているのが娘アンティゴネーとイスメーネー。

かつて告げられていた通り、父を殺し母を娶ってしまったことを知ったオイディプスは自ら目を潰し、放浪の末、アテナイ郊外のコロノスで最期を迎えることになります。悲劇を読む限り、死んだとは言い切れないけれども…

何よりオイディプスの表情が怖い。盲いて白く濁った眼球で正面を見据えて(睨んで?)いるのが。

こんな目で見られて、義弟クレオンも息子ポリュネイケスも恐怖を感じたりしたのかなぁ…。

 

 

アンリ=ピエール・ピクー『ステュクス川』

f:id:eureka_merl:20171123231120j:plain

上が今回展示されていたものですが、どうも完成作の下絵らしいです。その完成作というのが下。

構図こそ変わっていませんが、船に乗っている人物の服の色がいろいろになっていたり、船の漕ぎ手(ステュクス川、船、つまりカロン)が黒髪の青年から白髪の老人になっていたり、少しずつ変化が見られます。

年齢・性別・身分問わず、死だけは全ての人間に平等なのです…。

 

 

ピエール・ラクール(父)『オルフェウスとエウリュディケ』

f:id:eureka_merl:20171123231634j:plain

オルフェウスとエウリュディケのエピソードは、ウェルギリウスの『農耕詩』や、オウィディウスの『変身物語』に詳しく書かれています。

地上に戻るまで絶対に振り返らないという条件で冥府から妻の霊を連れ帰ろうとするも、うっかり(?)振り返ってしまって妻の霊は冥府に引き戻される、という話。

赤いマントを翻しているのははたして冥府に住まう誰なのか…。

あと、この画像ではたいへん見にくいのですが、絵の下部にはケルベロスがいます。冥府の番犬である三つ首のわんこ。なんと口から炎が漏れている。

 

 

オディロン・ルドンオルフェウスの死』

f:id:eureka_merl:20171123232356j:plain

妻を取り戻せなくて悲しくてやりきれなくなったオルフェウスは、とにかく女性を避けるようになります。そして同性愛文化を生み出したとかなんとか。

これが気に入らなかったのが、地元トラキアの女たち。何をしても自分たちになびいてくれないオルフェウスを、なんやかんやして八つ裂きにしたとのこと。そしてバラバラになった死体は川へぽーーーーん!!!

竪琴に乗ったオルフェウスの生首、といえばギュスターヴ・モローも描いていますね

(これ↓)

f:id:eureka_merl:20171123232702j:plain

 

 

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『オデュッセウスに杯を差し出すキルケー』

f:id:eureka_merl:20171123232842j:plain

あまりにも有名なキルケーの絵。あまりにも有名だから画像小さくていいやとかそんなこと考えてません。

この場面は『オデュッセイア』の第10歌に取材しています。

キルケーの館にやって来たオデュッセウスの部下たちは、この女神に不思議な薬を飲まされて豚に変えられます。

なんとか逃げてきた一人の部下からその様子を聞いたオデュッセウスは、その薬が効かないようにヘルメスの助けを得て、館に乗り込みました。

キルケーは同じように豚に変えようとするも、薬が効かないことにびっくり。「おぬし…やるな!」的な感じでオデュッセウスを気に入り、仲良く(意味深)なったのでした。

 

 

ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』

f:id:eureka_merl:20171123233601j:plain

あまりにも有名なセイレーンの絵。こちらは同じく『オデュッセイア』の12歌から来ています。

セイレーンはその美しい歌声で船乗りたちを惑わし遭難させる怪物。この絵では半人半魚の姿ですが、もともとは半人半鳥と考えられていました。

セイレーンの歌声をまともに聴くと海に引きずり込まれるので、部下たちは耳栓をして船を漕いでいます。ここまで近くに寄って来られるとさすがに怖いでしょうに。

ところが歌声を聴いてみたいオデュッセウスは自身を帆柱に縛り付けさせ、うっかり海に飛び込まないよう対策しています。さすが策士。まぁこの策を教えたのはキルケーなんですけど。

 

 

ギュスターヴ=アドルフ・モッサ『飽食のセイレーン』

f:id:eureka_merl:20171123234258j:plain

こちらは古代の伝承どおり「半人半鳥」として描かれたセイレーン。

いやいや顔が怖すぎるんやて。なんか血もこぼれてるし。

ちなみに、背景の海は地中海ではなく、モッサの生まれ故郷ニースとのこと。沈没している建造物もニースのもの。故郷を沈めるとはこれいかに…。

 

 

ホセ・デ・リーベラ『マルシュアスの皮を剥ぐアポロン

f:id:eureka_merl:20171123234547j:plain

この絵は展覧会ではなく、図録のコラムで紹介されていたものです。

コラム「もっと怖いギリシャ神話」ではギリシャ神話の中でもきわめて理不尽で残酷な神話3つが紹介されています。筆者である学芸員さんは「サディストの快楽殺人にしか見えないような陰惨酷薄な所業」と表現していますが、こういう話ばかり見ている我々からすれば…いやなんでもないです…。

 

1つめが「かわはぎ

サテュロスのマルシュアスがアポロン神に音楽勝負を挑み、あっさり負けて全身の皮膚を剥がされる話です。

2つめは「やつざき

さっきもオルフェウスの神話でこの単語が出てきましたが、ここで紹介されているのはアクタイオンです。森で迷った結果、うっかりアルテミス女神の沐浴シーンを目撃してしまい、キレた女神に鹿の姿にされる話。

何がひどいって結局アクタイオンは自分が飼っていた猟犬たちに殺されたという。理不尽の極み。

3つめは「みなごろし

7人の息子と7人の娘に恵まれたニオベが「レト女神様はふたりしかお子様がいないものね~~」と調子に乗った結果、子供全員をアポロンとアルテミスに殺された話。そこまでやらんでええやん。そらニオベもショックで石化しますわ。

 

 

こう振り返ってみると、絵そのものより基になった神話が怖かったりするんですかね。

でも絵になることでより鬼気迫るものがあります。

以下、古典におけるソースです(おそらく全部じゃありませんが…!)。絵で興味が湧いた方が文学の沼にも落ちればいいのに←

 

オルフェウス

オウィディウス『変身物語』10巻1~77行、11巻1~66行

ウェルギリウス『農耕詩』4巻453~527行

 

☆キルケ

ホメロスオデュッセイア』10歌203~347行

 

☆セイレーン

ホメロスオデュッセイア』12歌28~200行

 

☆マルシュアス

オウィディウス『変身物語』6巻382~400行

アポロドロス『ギリシア神話』1巻4章2節

 

☆アクタイオン

オウィディウス『変身物語』3巻138~252行

アポロドロス『ギリシア神話』3巻4章4節

 

☆ニオベ

ホメロスイリアス』24歌601~617行

オウィディウス『変身物語』6巻146~312行