Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

「ソアリン:ファンタスティック・フライト」で見つけた古代世界

ご存知かもしれませんが私ディズニーが好きでして(オタクを自称するのは怖いからやめときます。笑)、先日もディズニーシーに行ってきたんです。

そして去年の7月に出来た新アトラクション「ソアリン:ファンタスティック・フライト」にやっと!初めて!乗りました。幸運にも二回乗れた~。

まぁアトラクション自体は言わずもがなめちゃくちゃ面白いんですよ。詳しい設定などアトラクションの情報は、私が書かなくても、それこそWikipediaとか読めばわかることなので今回は割愛します。

で!で!!

やっぱりディズニーのアトラクションで楽しいのは待ち時間ですよ。というか楽しみを見出さないとやってられませんよ。このアトラクションは美術館という設定もあって、待ってる間に見るもの読むものがこれでもかとありまして!!

この記事では、ソアリンで見つけた古典学要素について書いていきます。お品書きは以下の通り!

  • 虹の女神イリス
  • 人類で初めて飛行に成功したダイダロス親子
  • 有翼の馬ペガソス
  • 哲学者アルキュタス

 

 

虹の女神イリス
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アトラクションのゲート入ってすぐの浮彫がこれ。3秒くらいで適当に撮ったので適当な写り方になってますごめんなさい。

ちょっと悩みましたが、虹の女神イリスを描いたものですね。

目印は、背中の大きな羽、伝令を表す杖ケーリュケイオンラテン語で云うとカドゥケウス)、足元に描かれた虹です。

伝令役を務める神といえばヘルメス様を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実はこのイリスもたびたび活躍しています。ゼウスがヘルメスを、ヘラがイリスを使うことが多いかな。

あと、神様は翼がなくても飛べる設定ですが、イリスは翼と共に描かれるのが一般的。

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これは紀元前480年頃の壺絵で、左がヘラ、右がイリスです。ヘラは王笏(ながーい杖みたいなやつ)と平たい杯を手に持っています。一方イリスが持っているのはお酌するための器と伝令の杖ケーリュケイオンです。翼が描かれているのはイリスだけですね。

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こちらは紀元前475~470年頃の壺絵です。左が三叉の矛と杯を持ったポセイドン、右はお酌用の器を持ったイリスです。ただし、イリスではなく青春の女神ヘベという説もあります(ヘベは神々の宴会での御酌係)。こちらも翼が付いているのはイリスだけ。

※リンクから画像の元サイトに飛べるようにしました。ぜひ他の壺絵も見てみてください~。


 

ダイダロスイカロス
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イリスの浮彫の左隣にあったのがこれ。これだけ夜撮ったのでやたらドラマティックに写ってますね…。

史実と伝説をまとめて「飛行に成功した人類」で最も古い例がこのギリシャ神話かと思います(東洋は知らんけど)。

クレタ島に幽閉されたダイダロスイカロスという親子が「陸や海から脱出できないなら空から脱出すればいい!」と思いつき、鳥の羽と蜜蝋(あるいは膠)で人間サイズの翼を作って飛び立ちました。いちおう飛ぶことには成功したふたりでしたが、息子イカロスが調子に乗って高度を上げすぎ、蜜蝋が融けてしまって翼が崩壊、海に墜落する――

という神話です。話を知っていると、あまりに強調して描かれた太陽が痛々しい…。

イカロスの神話自体は紀元前五世紀頃には流布していたと思われます。アポロドーロスの『ギリシア神話』に記述があったり(E.1.12)、さっきのイリスの壺絵と同時期の壺絵があったり。でもテキストとして有名なのは、やはりオウィディウス『変身物語』の8巻183~235行でしょうか。

 

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イカロスの墜落のある風景》ピーテル・ブリューゲル1世、1558年、ベルギー王立美術館蔵。

イカロス関連で有名な絵画といえばやっぱりこれでしょうか。画面右下で脚だけ見えているのがイカロス。今まさに墜落して溺れているところです。ディズニーシーの浮彫で下部に船が何艘か描かれているのは、この場面の直前であることを示すためかな、なんて妄想。

 

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イカロスへの哀歌》ハーバート・ジェームズ・ドレイパー、1898年、テート・ブリテン蔵。
 あと私が好きなのはこれ。翼の造形はディズニーシーのとこれが近い気がする。

 

 

③有翼の馬ペガソス
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イカロスたちの浮彫からさらに左隣。有翼の馬ペガサスは日本人にもお馴染みのモチーフですよね。翼の生えた馬なんて夢があふれる美しい生き物みたいに感じられますが、この生物はギリシャ神話上では怪物メドゥーサの首の傷から生まれています。と、ヘシオドスやオウィディウスは説明しています。

また、ペガソスと深い関わりを持つ人間にはベレロポンという英雄がいます。彼はペガソスに乗って怪物キマイラを退治しました。紀元前5世紀の抒情詩人ピンダロスの作品にベレロポンについての記述があります。

『オリュンピア祝勝歌』第13歌63-92行では、彼がペガソスを捕えて自分の馬にしたエピソードが、『イストミア祝勝歌』第7歌44-47行では、彼が不敬を働いてペガソスから落馬したエピソードが語られます。

ついでにカタカナでの表記揺れについて説明しておくと、ペガスはギリシャ語読み、ペガスはラテン語読み、ペガスは英語読みです。

 

 

④哲学者アルキュタス
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待機列の途中、階段を降りて室内に入る直前には、人類の飛行に挑戦した研究者たちの壁画があります。

レオナルド・ダ・ヴィンチに先立って飛行装置を開発したのが、紀元前4世紀ギリシャの哲学者アルキュタスでした。

彼と彼が開発したものについてはゲッリウス『アッティカの夜』10巻12章9節に記述があります。拙訳で失礼。

 

Sed id quod Archytam Pythagoricum commentum esse atque fecisse traditur, neque minus admirabile neque tamen vanum aeque videri debet. Nam et plerique nobilium Graecorum et Favorinus philosophus, memoriarum veterum exequentissimus, affirmatissime scripserunt simulacrum columbae e ligno ab Archyta ratione quadam disciplinaque mechanica factum volasse; ita erat scilicet libramentis suspensum et aura spiritus inclusa atque occulta concitum.

しかし、ピュタゴラス派のアルキュタスが考案し作ったと言われているそれは驚くべきもので、また無駄なものではないと見られるべきだ。というのも、高貴なギリシャ人たちの大半が、そして過去の記録をとても熱心に探求していた哲学者ファウォリヌスが、きっぱりと記述した、機械学のある計算と学識に基づいてアルキュタスに作られた木製の鳩の模型が飛んだと。たしかに、それは重りによって吊り下げられ、閉じ込められて隠された風の流れによって動かされていた。

 

ちなみにゲッリウスは紀元後129年頃に生まれたひとらしいのですが、あまりたくさんの情報はありません。『アッティカの夜』は様々な話題を扱った全20巻の随筆集です。西洋古典叢書から日本語訳出てるけどまだ9巻までしかなかった~~。

 

*****

 

「ソアリン」のスタンバイエリアにはこんな風に面白いものがたくさんあるので、ディズニーシーに行く機会があればぜひ乗ってみてください☆

通常の待ち時間がえぐいのでファストパスを活用することを強く推奨します。笑

 

あとね、ソアリン乗ってる間に香ってくる何かがとってもとっても良い匂いなので、あの香りのルームフレグランスとか売ってほしいな~~と思っています。お願いしますオリエンタルランドの偉いひと~~~!!!