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西洋古典学って、ご存知ですか?

【Heroides】推しを語る #3

シリーズ「推しを語る」第3回です。

↓前回の記事はこちらからどうぞ↓

eureka-merl.hatenablog.com

前回扱った『恋の歌』は、内容はさておき、恋愛エレゲイア詩の伝統(と言うほど年季の入ったジャンルではありませんが)に則った作品でした。 

今回扱う『名高い女たちの手紙(Heroides)』――ちょっと長いので以下『ヘロイデス』と呼びます――は、恋愛を主なテーマに据えていてエレゲイアの韻律で書かれている、という特徴は前作と共通していますが、タイトルにも表れているとおり、とてもユニークな設定で書かれています。

この作品は21篇の「手紙」から成っています。第1~15篇は神話伝承の中の女性たちがパートナー(?)たる男性へ送った単独書簡、第16~21篇は男女の恋人たちの間で交わされた往復書簡です。

 

今回はこのような観点で『ヘロイデス』を紐解いていこうと思います。

① タイトルについて:heroisとは?

② これまでの恋愛詩&書簡詩との違い

③ 書き手と読み手の「見る範囲」

 

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【Amores】推しを語る #2

うっかり始まってしまった「推しを語る」シリーズですが、前回はオウィディウスの作品に一切触れることなく終わってしまいました。

↓こちらからどうぞ 

eureka-merl.hatenablog.com

 

今回からオウィディウスの各著作を見ていきます。まずはデビュー作『恋の歌(原題:Amores)』についてです。

紀元前25年、18歳のオウィディウスはこの作品で華々しくデビューしました。ガッルス、ティブッルス、プロペルティウスに続く四人目の恋愛エレゲイア詩人が誕生したのです。

ところが、オウィディウスの書くエレゲイア詩は、形式こそ先輩たちに倣ってはいたものの、どうも目指しているところというか見ているものが違っていました。

この「先輩たちとの違い」が今回のポイントです。

 

ところで、作品タイトルのAmoresとはamorすなわち「恋」の複数形です。Amorという恋の神様もいますが、彼については別名の方が知られています。ラテン語でいうとクピードー、英語だとキューピッドと言われるあの神様です。

キューピッドというと、背中に羽を生やしていて、弓矢でハートを射抜いてくる少年神を想像する方が多いと思います。ギリシャでは違っていましたが、オウィディウスの頃にはほぼこのイメージが定着していました。

この神様とひと悶着あるところから作品は始まります。

  

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【... et Naso】推しを語る #1

皆様お久しぶりです。

そして何ヶ月も更新せず既存の連載記事も完結していないのに新しいシリーズを始めます。題して「推しを語る」

私の「推し」、つまりオウィディウスという詩人について好き勝手語り散らすシリーズです(今回含め全10回の予定)。

というのも、今年度も私は大学でTA(ティーチング・アシスタント)を務めていて、西洋古典文学史の授業でイラスト付きの資料を描くという仕事を仰せつかっていました。

その締めくくりに、私の研究対象であるオウィディウスの作品について形式は何でもいいからとにかく語ってほしいという最高の仕事をいただいたのです。

そして興奮しまくった私は学部生向けの資料だというのに二万字超えの怪文書を作ってしまいました……笑

で、せっかく書いたからここにも載せたろ!!!という次第です。

 

もとの文書の内容は、オウィディウスの生涯を辿りながら彼の各著作についての概要を説明していく、というものでした。

ここには分割して加筆修正したものを載せていきます。

 

第1回である今回は【... et Naso】、つまり「〇〇とナーソー」と題しました。

○○に入るのは、彼の作品を紐解く上で欠かせないキーワード、「エレゲイア」「恋愛詩」「カリマコス」です。

今回はこのキーワード3つと、オウィディウスの詩人デビュー前の経歴についてお話していきます。

 

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