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西洋古典学って、ご存知ですか?

【双子座】フーコと読む星座神話 #4

連載「フーコと読む星座神話」、今月はふたご座についてです。

 

あつ森で手に入る「ふたござのかけら」は青色ですが、これは6月の誕生石ムーンストーンあるいはアレキサンドライトの色と思われます。これを使ってDIYできる家具は「ジェミニのクロゼット」です。エレガント家具シリーズと相性が良くて好き。でもポケ森まで存在したロイヤル家具シリーズだともっと良いと思う

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ジェミニはふたご座のラテン語名Geminiを英語読みしたもの。古典ラテン語の発音では「ゲミニー」です。ギリシャ語ではΔίδυμοι(Didymoi、ディデュモイ)といいます。

 

それでは、そんなふたご座をめぐる神話を、フーコちゃんはどのように語っているでしょうか。

フーコちゃんの中でゼウスの評価がどんどん下がっている〜!! いやでもこれがギリシャ神話に触れたばかりの人たちのリアルな感想か~!?

古典学者のアウトリーチの課題のひとつに、ゼウスへの誤解を払拭するってのもあるかもしれませんね。『ゼウスの覇権』読もう……。

 

今回の内容はざっくりこのとおりです。

①双子座の起源

②ディオスクーロイ伝承いろいろ

③双子座の異説と神話上の双子たち

 

 

Ⅰ 双子座の起源

毎度おなじみムル・アピン粘土板には「大きな双子」と「小さな双子」がいます。

「大きな双子」は双子座のα星(カストル)とβ星(ポルックス)を指しています。仲良く並んだ明るい星たちはシュメールに限らずさまざまな土地で「双子星」と認識され、日本国内だけでも方言的にさまざまな呼び名が確認できます(猫の目、兄弟星、金星銀星etc...)。古代バビロニアの図像だと、「大きな双子」は武器を持った二人の武人の姿で表現されています。

一方、「小さな双子」は双子座のζ星とλ星にあたると考えられています。ヨーロッパの各星座絵を参照すると、双子の片割れの両膝に相当しそうな星たちです。こちらもバビロニアでは二人の武人の姿で表現されています。

いずれにせよ、バビロニアの時点では人間が二人並んでいる姿であって、同じ母親から同時に生まれたという意味での「双子」とみなされたのはギリシャ時代に入ってからのようです。

 

 

Ⅱ ディオスクーロイ伝承いろいろ

ギリシャにおける双子座は、フーコちゃんが言うとおり、カストルポルックスギリシャ語だとポリュデウケス)という双子とみなされました。そして、この双子の名前がそのまま双子座の最も明るい星たちの名前になっています。

エラトステネスは双子座のモデルを「ディオスクーロイ」だと言っています。これはカストルとポリュデウケスを二人まとめたときの呼び名で、「ゼウスの息子たち」を意味します。

この双子は武勇に優れていたため、アルゴ号の冒険やカリュドンの猪狩りといった神話上の英雄が集結するイベントにはだいたい参加しています。それゆえさまざまな古典文学にディオスクーロイへの言及がありますが、作品間で細かな違いも見られます。

以下では「カストルポルックスの父親」「イダスとリュンケウスとの争い」「争いの後の双子」という3つのポイントを諸作品がどう書いているかを、古い順に見てみます。

※イダスとリュンケウスはメッセネ王アパレウスの息子たち。ディオスクーロイと揉めた理由は作品によって分かれますが、いずれにせよ彼らと争ったことがカストルの死につながります。

 

①『イリアス』3.236-44

[父親] ふたりともゼウスの息子

[争い] 言及なし

[その後] ふたりとも死んでラケダイモンの地に眠っている

 

②『オデュッセイア』11.298-304

[父親] ふたりともテュンダレオスの息子

[争い] 言及なし

[その後] 一日ごとに生きることと死ぬことを繰り返す

 

③ ヘシオドス断片

[父親] ふたりともゼウスの息子(21)、あるいはふたりともテュンダレオスの息子(154c)

[争い] 言及なし

[その後] 言及なし

 

ピンダロス『ネメア祝勝歌』第10歌54行以降

[父親] カストルはテュンダレオスの息子、ポリュデウケスはゼウスの息子

[争い] 牛の分配をめぐって争い、カストルがイダスに殺される

[その後] 一日おきにオリュンポスと地下を行き来している(ポリュデウケスがゼウスに願った結果)

 

⑤ テオクリトス『牧歌』第22歌

[父親] ふたりともゼウスの息子でありテュンダレオスの息子(曖昧)

[争い] ふたりとも勝利する

[その後] 言及なし

 

 

オウィディウス『祭暦』5.707-714

[父親] 言及なし

[争い] カストルがリュンケウスに刺し殺される

[その後] 言及なし

 

⑦ ヒュギヌス『神話集』77 & 80

[父親] カストルはテュンダレオスの息子、ポルックスはゼウスの息子

[争い] 女性を巡って争い、カストルがイダスに刺殺される

[その後] ポルックスは「星を与えられた」がカストルには与えられず、ポルックスの説得で二人が「贈物を共有」

 

⑧ アポロドロス『ビブリオテーケー』3.11.2

[父親] カストルはテュンダレオスの息子、ポルックスはゼウスの息子

[争い] 牛の分配をめぐって争い、カストルがイダスに殺される

[その後] ポリュデウケスが認めなかったので、一日おきに神々と人間との間にいることをゼウスが許可

 

――ということで、以上のバリエーションをまとめると、まず生れについては「二人ともゼウスの子」「二人ともテュンダレオスの子」「ポルックスはゼウスの子でカストルはテュンダレオスの子」の3つの説が混在しており、3つめが主流となったようです。

アパレウスの息子たちと争ったことでカストルが命を落としたことはいくつかの文献で共通しています。テオクリトスは特殊型ですね。

そしてポルックスカストルとで一日おきに死と不死を分け合っているという筋書きは、『オデュッセイア』以降少しずつ変容しながら継承されているようです。星との関係を示しているのはヒュギヌスくらいですが。

ちなみに、エラトステネスはディオスクーロイの兄弟愛ゆえにゼウスが星にしたというような説明をしています。良き見本ってことね。

 

 

Ⅲ いろんな双子 

3-1. 双子座の異説たち

ヒュギヌス『星辰譜』およびゲルマニクス『パイノメナ』の古註によると、双子座のモデルとなった神話上の人物はディオスクーロイ以外にも何組かいるようです。

 

①ゼトスとアンピオン

ゼウスの息子たちであり、テーバイの城壁を創建したと言われる双子です。アポロドロス3.5.5によると、ゼトスは牛飼い、アンピオンは竪琴の名手でした。

ディオスクーロイは騎馬と拳闘という戦闘の技術に長けた双子でしたが、こちらは牧畜と芸術なので特技の方向性が結構違いますね。

 

ヘラクレステセウス

詳細は端折りますが、共にたくさんの難業を達成した英雄です。バビロニアの星座図にあるような武人のイメージには合致します……かね?

 

③イアシオンとトリプトレモス

共に豊穣の女神デメテル(ケレス)の寵愛を受けた人物です。彼らのおかげで人間は農耕の技術を知ったと言われる二人ですが、そうすると②とは違って(そして①に近い)知恵の英雄っぽさがあります。アキレウスではなくオデュッセウス、的な。

 

ヘラクレスアポロン

なんでこの二人(二柱と言うべきか)をくっつけたんだろうって私は思っちゃうんですけど……古代の人気者二人ってことかな……この二人が絡む話がすぐ思いつかないです……。

 

 

3-2. 神話における双子たち

正直、ギリシャ神話において「双子」であることを強調されるのはディオスクーロイぐらいです。この二人はいつでもどこでも一緒に登場します。そして出てくる双数形。

じゃあ双子は他にいないのかというと、そんなことはありません。先述したゼトスとアンピオンも双子です。

ネットの海をふらふらしていたところ、英語版wikipediaに「神話における双子」というページがあったので、ここに載っているペアの中で気になったものをいくつかピックアップして、この記事のシメとします。wikipediaの該当ページはこちら↓

Twins in mythology - Wikipedia

 

ヘレネーとクリュタイムネストラ

それこそ、ディオスクーロイと同時に生まれたヘレネーとクリュタイムネストラだって双子とみなして良いでしょう。ヘレネーはポリュデウケスと同じくゼウスの子、クリュタイムネストラカストルと同じくテュンダレオスの子と言われています。

ヘレネーはスパルタ王メネラオスと、クリュタイムネストラミュケナイアガメムノンと結婚しました。メネラオスアガメムノンは兄弟なので、姉妹そろって同じ家に嫁ぎに行ったようなものです。そう考えると双子らしい対称性を見いだせます。

しかし、結婚する前もした後も二人で何かをしたという描写が一切見当たらない(むしろ夫の帰国後の運命は正反対!)ので、双子であるという事実はどうしても霞んでしまいます。あと、実は古いギリシャ文学だと、ヘレネーとクリュタイムネストラの親が同じかどうかあまり明言されないんですよね……。

 

ヘラクレスとイピクレス

片方が神の子、もう片方が人間の子とみなされたという点でカストルポルックスと共通するのがヘラクレス&イピクレスです。母親はアルクメネで、ヘラクレスの父親はゼウス、イピクレスの父親はアンピトリュオンとされます。アポロドロス2.4.8ではヘラクレスが「一夜だけ年上」と書かれているのですが、だとするとアルクメネは少なくとも24時間産みの苦しみを味わったということで……しんどいね。

ヘラクレスが生れたばかりのときに蛇を絞め殺したという有名なエピソードがありますが、この蛇を赤子たちの寝床に投げ込んだのが実はヘラ女神ではなくアンピトリュオンで、イピクレスが逃げたことからこっちが自分の子だと悟ったという説もあります。無慈悲だな~

あとはヘラクレスがメガラとの間にもうけた娘をイピクレスに与えた(養子にした?)とか、狂気に駆られたヘラクレスがイピクレスの子も殺してしまったとか、イピクレスの息子であるイオラオスヘラクレスの12の難業に付き添ったとか。アポロドロスだけ見ている分には、めっちゃ仲が悪いわけでもなく、ほどよい距離感を保っていたという印象です。成人した兄弟のリアル。

 

ロムルスとレムス

ローマを専門とする者として、忘れちゃいけないのがロムルスとレムス。戦神マルスと巫女レア・シルウィアとの間に生まれたものの、捨て子となって狼に育てられ、羊飼いに拾われたという壮絶な幼少期を過ごした双子です。ローマという都市の創建に関わった重要人物で、片割れのロムルスは初代国王でもあります。

じゃあなぜローマ人はこの二人を双子座のモデルにしなかったんだろうと考えたのですが、まぁ建国段階でどっちが王になるかで壮大な兄弟喧嘩を繰り広げており、決して仲良しだったとは言えないので、一緒に空に並んでいる姿を想像しにくいのはたしかです。