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Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

「黄金の雨に変身する」とは??

絵画と古典

最近研究室でよく話題になる神話があります。

以前ここでも取り上げた、ペルセウスの母ダナエにまつわる神話です。

 

ダナエといえば「黄金の雨に身を変えたゼウスによって身ごもり、ペルセウスを産んだ」ことになっていますが、

そもそも黄金の雨になるってどういうことやねん!!

というツッコミが最近研究室で頻発しているのです。

 

長いこと古典学をやっていると、もはやちょっとやそっとの変な言い回しには動揺しなくなる(というか反応が鈍くなる)のですが、

言われてみれば確かに変だ。というか何言ってんだコイツ感がすごい

 

そんなわけで今回は

①ダナエの妊娠に関するテキスト

②ゼウスが変身してダナエのもとに来たところを描いた絵

を追いながら、とりあえず何が起こったのかだけはっきりさせておこうと思います。

 

 

テキスト① ヒュギヌス『神話集(Fabulae)』63

Danae Acrisii et Aganippes filia.

ダナエはアクリシウスとアガニッペーの娘だった。

Huic fuit fatum ut quod peperisset Acrisium interficeret.

この娘に対し、彼女が産んだ子がアクリシウスを殺すだろうという予言があった。

Quod timens Acrisius, eam in muro lapideo praeclusit.

そのことが怖くなったアクリシウスは、彼女を石壁の中に閉じ込めた。

Jovis autem in imbrem aureum conversus cum Danae concubuit, ex quo compressu natus est Perseus.

しかし、ユピテルは黄金の雨に変身してダナエとひとつになり、この抱擁からペルセウスが生まれた。

Quam pater ob stuprum inclusam in arca cum Perseo in mare dejecit.

父(アクリシウス)は、この密通のために彼女をペルセウスと共に箱に閉じ込め、海へと投げ込んだ。

 

ヒュギヌスはユピテルが「黄金の雨(imber aureus)」になったと伝えています。

どうやって交わった(concubuit)のかは伏せていますが。

 

テキスト② アポロドロス『ギリシア神話(Bibliotheca)』2.4

Ἀκρισίῳ δὲ περὶ παίδων γενέσεως ἀρρένων χρηστηριαζομένῳ ὁ θεὸς ἔφη γενέσθαι παῖδα ἐκ τῆς θυγατρός, ὅς αὐτὸν ἀποκτενεῖ.

男の子の誕生のことで神託を乞うていたアクリシオスに対し、神は「娘から生まれて来る子は、お前を殺すことになる」と言った。

δείσας δὲ ὁ Ἀκρίσιος τοῦτο, ὑπὸ γῆν θάλαμον κατασκευάσας χάλκεον τὴν Δανάην ἐφρούρει.

それが怖くなったアクリシオスは、地上に青銅の部屋を準備してダナエを監視した。

ταύτην μέν, ὡς ἔνιοι λέγουσιν, ἔφθειρε Προῖτος, ὅθεν αὐτοῖς καὶ ἡ στάσις ἐκινήθη.

ある者たちが言うには、プロイトスが彼女を犯して、そこから彼らの間に争いが生じた。

ὡς δὲ ἔνιοι φασι, Ζεύς μεταμορφωθεὶς εἰς χρυσὸν καὶ διὰ τῆς ὀροφῆς εἰς τοὺς Δανάης εἰσρυεὶς κόλπους συνῆλθεν.

またある者たちが言うには、黄金に変身したゼウスが屋根からダナエの胸元へと入り込んでひとつになった。

αἰσθόμενος δὲ Ἀκρίσιος ὕστερον ἐξ αὐτῆς γεγεννημένον Περσέα, μὴ πιστεύσας ὑπὸ Διὸς ἐφθάρθαι, τὴν θυγατέρα μετὰ τοῦ παιδός εἰς λάρνακα βαλὼν ἔρριψεν εἰς θάλασσαν.

彼女から跡継ぎとなるペルセウスが生まれたことを悟ったアクリシオスは、彼女がゼウスに犯されたということを信じず、娘を子どもと一緒に箱に入れて海へと投げ込んだ。

 

アポロドロスはもうちょっと詳しく書いてくれています。

ゼウスが「黄金に(εἰς χρυσὸν)」なったということだけ雑ですが。

屋根から入り込んでダナエの体に侵入…ということで。

 

テキスト③ オウィディウス『変身物語(Metamorphoses)』4.607-611

solus Abantiades ab origine cretus eadem

Acrisius superest, qui moenibus arceat urbis

Argolicae contraque deum ferat arma genusque

non putet esse deum. neque enim Jovis esse putabat

Persea, quem pluvio Danae conceperat auro.

(バッコスと)同じ一族の生まれであるアバースの子アクリシウスだけは同意せず、

アルゴスの町の城壁から神を締め出し、対抗して武器をとり、

神の子であると認めなかった。ダナエが黄金の雨によって身ごもったペルセウス

ユピテルの子であることも認めなかった。

 

オウィディウスはだいぶぼやけた書き方をしていますが、

たぶんさっさとペルセウスの武勇伝を書きたかったんでしょう…。

 

***

 

以上の3つの説話から考えるに、ゼウス(ユピテル)は

黄金の雨になって ダナエが閉じ込められている石ないし青銅の部屋の屋根から侵入し

ダナエの体内(胎内)にしれっと流れ込んだ

ということで。

ゼウスさん天気を司る神だから別に雨になっても不思議じゃないのだろうか…。

 

***

 

このトンデモ神話を描いた画家はたくさんいます。

というわけで以下彼らがどう描いたかを見ていきましょう。

 

絵画① ヤン・ホッサールト

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(1527年、ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク)

たぶんこの後紹介する誰よりもアポロドロスに忠実。

ちゃんと上から雨っぽいのが降りてきてダナエの脚の間に入って行ってますからね。

 

絵画② コレッジョ

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(1531年、ローマ、ボルゲーゼ美術館)

雨っていうか雲ですやん。

周りにちょいちょいいるのはキューピッドことアモルですね。

まぁいちおうゼウスさんの色恋のひとつですからね。

アモルがダナエの体に雲を誘導しているようにも見える…。

 

絵画③ ティツィアーノ(1作目)

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(1545‐6年、ナポリ、国立カポディモンテ美術館)

雨雲…?というか靄…? 

 

絵画④ ティツィアーノ(2作目)

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(1553‐4年、マドリードプラド美術館)

全体的に暗くなったおかげで悪天候感が出てる。

あと今までいたアモルが乳母に替わっていますね。 

 

絵画⑤ レンブラント

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(1636-50年、レニングラードエルミタージュ美術館)

ゼウスさんどこだ。

あと乳母が「家政婦は見た!!」みたいになってる。

レンブラントはまたアモルを描いていますね。

 

絵画⑥ クリムト

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(1907-8年、ウィーン、ヴュルトレ画廊)

ダナエだけをキャプチャしているので、ある意味神話にいちばん忠実。

黄金の雨がダナエの脚の間に入り込んでいるところ。

 

画家たちもいろいろ翻弄されていたんでしょう。

人によってダナエの表情や雨の描き方がまちまち。

ただ、全部の絵に一言申したいのは

「あんまり閉じ込められている感じしないな???」

 

***

 

結局「いかに不可思議か」ということしかわかりませんでしたが、

それでこそ 神話 だ!!

ということで。夏休みの戯れ、でした。