Εὕρηκα!

西洋古典学って、ご存知ですか?

ディズニー映画『ヘラクレス』コメンタリ ~Hercules' mansion~

前回の記事はこちら

eureka-merl.hatenablog.com

 

数々の功績を積み重ねたことで神の仲間入りができる日は近いと期待していたヘラクレスですが、父ゼウスからは思うような返事はもらえず、わだかまりを抱えたまま神殿を去ることになりました。

そして帰ってきた自宅がこれ。でけぇ~!!!

f:id:eureka_merl:20210909090858j:plain

ちなみに後で出てきますが内装はこんな感じ。

f:id:eureka_merl:20210909090926j:plain

私、建築に関してはほぼ素人なので深入りしませんが、ギリシャよりローマっぽさを感じる……

というかこの映画自体ギリシャとローマの違いをあまり気にしていないような。

 

今回からはストーリーの流れにあまり触れないことにします。コメントしたい箇所がとびとびになってきたので……笑

 

 

まず、師匠のフィルがマネージャーよろしくスケジュールを読み上げる場面。

f:id:eureka_merl:20210909090959j:plain

f:id:eureka_merl:20210909091018j:plain

この日の1時の予定は「アウゲイアス王の牛小屋掃除」。本家ヘラクレスの12の難業のひとつです。

具体的には、牛小屋に溜まった牛の糞を一日でかつ一人で運び出せ、という命令でした。他の難業と同じく、これもエウリュステウス王に命じられたことなのですが、本家ヘラクレスは王の命令であることを伏せてアウゲイアスに報酬(家畜の十分の一)を要求しました。

そして無事に掃除は終えたのですが(近くの川の水を引いてきて洗い流した)、エウリュステウスの命令だったと知ったアウゲイアスは報酬を与えないと言い出します。ヘラクレスの仕事を近くで見ていた王の息子も入ってきて言った言わないの論争になるのですが、最終的にヘラクレスは王の息子と共に国から追い出されました。

さらにエウリュステウスからは勝手に報酬を要求したとして難業達成とは認められず。

実は、ヘラクレスがこなすべき難業はもともと10だったのです。にも関わらず、エウリュステウスの独断で未達成とみなされたのが、このアウゲイアス王の牛小屋掃除と、映画では壮大に描かれていたヒュドラ退治です。ヒュドラ退治は自力で達成したのではなく甥の知恵を借りたから、という理由。

 

ところで、二枚目の画像からわかるとおり、ヘラクレスはスケジュールを聞きながら陶器画のモデルもしています。獅子の毛皮と棍棒は本家ヘラクレスアトリビュート(絵画上の目印)です。やっと武器と見た目が本家らしくなった。

 

*****

 

f:id:eureka_merl:20210909091041j:plain

3時の予定は「アマゾネスから腰帯奪取」。これも12の難業のひとつです。ただし、本家のミッションは「何人かから(from some Amazons)」ではなく、アマゾネスの女王ヒッポリュテーの帯だけ奪ってくることでした。ヒッポリュテーが持っていたアレスの帯を、エウリュステウスの娘が欲しがったそうです。

このときは女神ヘラが邪魔をしました。アマゾンの一人に変身して、ヘラクレスたちが女王をさらおうとしていると言って回ったのです。そうすると戦闘民族であるアマゾネスは当然武装して彼らを出迎えます。ヘラクレスは彼女たちと戦い、ヒッポリュテーを殺してその帯を奪いました。なかなか痛ましい結末ですね。

 

*****

 

ヘラクレスが言うこと聞かずに動きまくるので、陶器画家が怒って帰ろうとしている場面。

f:id:eureka_merl:20210909091104j:plain

 

日本語吹替だとフィルのセリフは「まぁまぁ落ち着いて」になっていますが、原文はkeep your toga on, pal. 「トガを付けてくれ」です。

トガ(toga)とは古代ローマの衣服の一種で、トゥニカと呼ばれる膝丈~くるぶし丈のワンピース状の服の上に羽織る一枚布のことです。ギリシャにも似た上衣がありますが(ヒマティオンといいます)、それよりもはるかに大きいです。ヒマティオンがだいたい幅2mで、トガは6mと考えられています。形も少し違っていたという説があり、ヒマティオンは長方形ですが、トガは八角形を半分にしたような形状と言われています。

トガは年齢、性別、職業や身分で色や刺繍が違っており、最盛期には本当にたくさんの種類があったのですが、でかい!暑い!重い!という煩わしさから徐々に衰退しました。最盛期こと帝政初期にはでかくてひだがたくさん作れるやつほど良い、と考えられていました。まぁ衣服の流行り廃りなんてそんなもんよね……。

 

それはともかく、この陶器画家が着ている服はひだの入り方を見るにヒマティオンの類と思われます。ただ、上裸にヒマティオンを直接着付けているようですね。ギリシャだとよくあるスタイリングです。筋肉こそ最強のアクセサリー……。

逆にトガをトゥニカなしで着ている例はあんまり見ないな……。

 

*****

 

ヘラクレスがファンの子にもみくちゃにされている場面。

f:id:eureka_merl:20210909091601j:plain

些細なことですが、「脱出作戦B」を英語でビーではなくギリシャ語でベータと読ませているあたり、ちゃんとしてるなーと思いました。……それだけです。笑

 

*****

 

今回はちょっと短いのですがここまで!次のチャプターに食い込むと長くなりそうなので…。

古代の衣装に関しては以前オープンキャンパスで好き勝手したときにも少し触れたのでぜひご覧ください!

eureka-merl.hatenablog.com