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西洋古典学って、ご存知ですか?

【演出編】自分の結婚式をどうしても古典色に染めたかった某はぐれ古典学者のはなし

演出の話をする前に古代ローマの結婚式がどのように進行されたかをお話しせねばなりませんね。もちろん時代や各家庭の状況により異なる箇所は大いにあるはずですが、一例は以下のとおりです。

 

①花嫁の身支度

結婚式前夜、花嫁はtoga rectaとflammeumをまとい、髪をsenicrinesと呼ばれる髪型にまとめます。下手ですが、図解するとこんな感じ↓

②犠牲式と誓言

当日の朝は花嫁の家に集合し、神々へ生贄を捧げつつ犠牲獣の内臓で吉凶を占います。新郎新婦は証人の前で双方が結婚に合意したことを宣言し、ユピテル・ユノ・ウェヌス・フィデス・ディアナに祈りを捧げました。

③花嫁の家での饗宴

新郎新婦による犠牲が済むと、日が暮れるまでは宴会。

④新居へ移動

夜になると全員で行列を作り、松明を灯して祝婚歌を歌いながら新居へ移動。花嫁はもう生家へ戻れません。

⑤新居での誓言

新居へ到着すると花嫁は新居の神々へ"ubi Gaius es, Gaia sum.(あなたがガイウスであるところ、私はガイアとなります)"という誓いの言葉を述べ、正式に花婿の家族になったとみなされました。

 

さて、この一連の流れをどのように現代日本の式進行に落とし込むか?

さすがに犠牲式はできません(笑) ただし、詩人カトゥッルスが友人のために作った祝婚歌をもとに、現代日本の結婚式と調和させることはそれなりにできたと思っています。

今回はその中でも音楽・演出面についてです。

 

 

Ⅰ. praetexta→席次表

カトゥッルスの祝婚歌からは、新婦の父親がtoga praetextaを着る身分であったことがうかがえます。私の父がその身分に相当しているかはさておき、これを席次表デザインに反映させてみました。

toga praetextaは白地に緋色の縁飾りがついたトガ。まさにそれらしいデザインをカタログで見つけて即決しました。

 

Ⅱ. taedae→キャンドルサービス

キャンドルサービス自体は現代の結婚式でよくある演出ですが、火を使うという点では婚礼の行列と重なります。

というわけで私は、祝婚歌のための前座としてキャンドルサービスを行いました。笑

 

Ⅲ. epithalamion→祝婚歌

行列で歌われた祝婚歌を披露宴に取り入れるのは簡単な話で、私が余興で歌えばいいだけでした。

この日のために買いましたとも!!リュラ!!

そもそも「結婚式を古典色に!」という夢を抱いたのは、カトゥッルスの祝婚歌(Cat.61)の存在を知ったときです。たしか同時期に古典学会で佐藤二葉先生の演奏を聴いたのですが、それ以来「私も古代のうたを歌ってみたい!!!」という欲求が止まらなくなったんです。

そして「自分の結婚式ではカトゥッルスを歌う」という夢ができ、他の演出についても妄想をふくらませていました。その夢を叶えられる式場に出会えて本当によかったです。

 

とはいえ、作曲はかなり困難でした。

まずこの詩の韻律はlyrica※の型のひとつであり、いわゆるヘクサメトロスやトリメトロスのように一種類の韻脚を一行の中で繰り返すものではありません。図示すると以下のようになります。

―v/―vv―/v―

ヘクサメトロスの場合、長音節を現代音楽で云う四分音符、短音節を八分音符に置き換えて四分の二拍子で表現することが可能です。抒情詩の場合も不可能ではありませんが、四拍子(ときに三拍子)に染まりきった現代日本の我々には耳馴染みのないリズムになります。

この歌の拍子も、八分の3+6+3で、三善だってそんなことはしないだろうという具合です(合唱人にしか伝わらなさそうな例え)。

 

※抒情詩と訳されることの多い言葉ですが、内容が抒情的であるかを問わず「リュラの伴奏にて歌われるもの」を指すのであえてラテン語のままに留めています。

 

また、ラテン詩ゆえにelisionが発生するのも私にとってはなんとかしたい問題でした。歌詞はできる限りそのまま届けたかったですし、とくに繰り返される結婚の神々の名前HymenaeusとHymenがかき消されるのは由々しき事態ではないかと。

 

この問題を解決すべく、今回私は以下のルールを設けました。

①四分の七拍子を基本に据え、一行を一小節に収める

②elisionが発生する箇所でも音を消さない→読むべき音が増えた分は変拍子で対応する

 

また、歌う範囲は全体の1/3ほどにしました。その理由もふたつ。

①全部歌うと長すぎる

それでも全体尺が6~7分になったので、意図せずかなりの体力勝負となりました……。

祝婚歌特有の性的表現を避けたかった

古典学を心得た方ばかりなら気にしなかったのですが、初めて古典詩、いやラテン語に触れるという方が(私の親族含め)大半であり、そのような方々がこれらの表現を見ると驚いてしまうのではと思ったからです。日本語ではないとはいえ、小さなお子様に聞かせるのもはばかられましたし。

 

そんなこんなでひいひい言いながら作曲を施しましたが、どうだったんでしょう……あんまりゲストの方から歌の評価は聞けなかったのでもしかしたらひどかったのかもしれません……(私自身も歌っていたときの記憶がほぼありません)。

いろんな意味でリベンジしたいです。

ただ作曲自体は楽しかったので、今後もいろんな詩でやってみようと思っています♪


*****

 

最後になりましたが、実はブログで書いた内容とカトゥッルスの対訳・注釈は披露宴当日にゲストにも「解説資料」として共有していました。

QRコードを配布するという最近のアカデミアでちょいちょい見るスタイル(笑)

すぐに読み込んで質問をぶつけてくれる方もいれば、帰宅してからじっくり読んだという方もいらっしゃいました。良い話題作り・時間つぶしにはなったんじゃないかなと思います。

一生に一回のイベントだからと張り切りましたが、私のわがままに付き合ってくれた式場スタッフの皆様と親族・友人たち、そして誰より夫には感謝してもしきれません。

本当に楽しくて幸せであっという間な一日でした。